看護・医療への疑問からより良いケアを目指す

慶應義塾大学看護医療学部教授
武田 祐子

大学で看護医療を学び、学生はさまざまな疑問や課題を抱えながら4年次の選択科目であるプロジェクトに臨みます。とくに、私が学部で担当している科目が急性期看護であることから、3年次の臨床実習体験を通して研究テーマを検討してくる学生が多いようです。ガイダンスでは「周手術期(手術前.手術後)看護」「がん看護」「遺伝看護」等を指導可能な領域として示しているため、そこに当てはまらない、あるいは学生自身の関心を明確な研究テーマに結び付けられていない場合には、プロジェクトの指導が得られるのか不安を持つようです。最初の面接で「指導可能な領域に含まれていなくても臨床看護の研究指導は可能」「テーマは今までの体験だけではなく、これから関連する文献を読んで絞っていけばよい」ことを話しています。実際に、春期には関心ある文献を持ち寄りクリティーク(建設的に批判的な視点を持って抄読)することから始めています。それまでは文献を読めば「なるほど……」と納得してきたことにも、「ごく限られた対象にしか該当しない結果では?」「もっと違う研究方法は?」「臨床に活用するためには?」と、研究に対する新たな疑問がわいてきます。

これまでにプロジェクトで学生が取り組んだテーマは、食道癌手術後患者の食への援助、遺伝性腫瘍患者の患者会に関する思い、手術室における音楽療法の活用、HIV患者の服薬に対する支援、といった幅広い内容で、いずれも臨床実践へ興味深い示唆が得られています。プロセスでは、臨床や研究会等の見学・研修、専門家から助言が得られる機会を積極的に組み入れています。限られた期間の中で、研究計画立案、データ収集、報告書の作成と進めていかなければならないので、最初に学生が抱いた疑問のほんの一部しか明確にできないことも少なくありません。しかし、一つの事柄に時間をかけて追究した経験が自信となり、卒業後に看護・医療を発展させていく上での原動力となっていくものと期待しています。

平成17年度には健康マネジメント研究科が開設されました。臨床での経験を積み、看護の研究課題を抱えた一期生が入学してきました。実践で鍛えられた学部卒業生がさらに学びを深めるために研究科に戻ってくることも多くなってくるでしょう。皆さまと共により良いケアの追究を目指したいと思います。