「マクロな視点から世界の人々の暮らしを守りたい」門元記子さん

マクロな視点から世界の人々の暮らしを守りたい 門元記子さん

近年大きな課題となっている地球規模での人口問題は、21世紀の人類が直面している重要課題のひとつ。それを単に数の問題ではなく、人間の尊厳の問題として取り組んでいる国連機関が国連人口基金です。そこで働く職員の女性にお話を伺いました。登場してくれるのは慶應義塾大学看護医療学部1期生の門元記子さん。国連機関で働くことの魅力、やりがい、この道を志した経緯などを伺ってきました。

--今どのような仕事をしていますか?

United Nations Population Fund(国連人口基金)では、政策づくりと実施の両面から、各国の政府と直接対話をし、「人口と開発」「性と生殖に関する健康/権利」「ジェンダーの平等」という3つの大きな柱で活動しています。中でも全ての妊娠が望まれ、全ての出産が安全に行われ、全ての若者がそのポテンシャルをフルに発揮できる世界を目指して様々な取り組みをしています。昨年、私が勤務しているジンバブエ事務所では、日本政府のODA(Official Development Assistance、政府開発援助)でお母さん方がお産までの数週間を安心して病院のそばで過ごせるMaternity Waiting Homeの改修工事を支援しました。日本の皆さんの支援がジンバブエのお母さん方に笑顔を届けていることを肌で感じ、大変嬉しく思いました。

--国連機関で働くことの魅力とは?

実際その国の政府と政策レベルで関われる仕事ができることです。NGOの活動のようにコミュニティーに根ざした取り組みも非常に重要で、私たちの多くのパートナーも一生懸命に取り組んでいます。しかし、国連ミレニアム開発目標のように世界レベルで協議された目標達成に向けて、各国政府に対して行うアドボカシー(政策提言)活動は国連ならではだと思います。非常にマクロレベルでの活動ですが、国や地域の持つ特性や事情をエビデンスをもとに細かく見つめながら、サービスが国民一人ひとりのもとに届けられるためには、どういったことができるのかを考えていく視点はとても魅力的です。これらの政策がない限りすべての人の健康問題にはまずアプローチできないと思うので。

--そもそも国連機関で働くことになったきっかけは?

実は大学卒業後の3年間は看護師として虎の門病院で働いていました。世界的に見ても日本の医療は群を抜いて高水準です。命の現場の最前線で貴重な時間を過ごすとともに、多くのことを学ばせていただきました。しかし今後の人生をどう歩んでいこうかと考えたとき、幼少時に暮らしていたフィリピンのことがいつも頭に浮かびました。日本の医療水準はハイレベルですが、途上国では基本的な医療サービスすらも当たり前ではないなと。そして国内外の保健医療について詳しく学びたいと思い、退職して東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻に進学し、フィリピンでの調査研究を進めると同時にマニラにあるWHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務所でインターンシップをさせてもらいました。そこで国連のダイナミックな仕事に感動したのを覚えています。それが一番大きなきっかけでした。様々な国の情報を収集しながら、エビデンスを基に各国事務所を通して政府へアドバイスをしていくんです。全てのプログラムにおいて政府のオーナーシップの大切さを学ぶと共に、主体は政府でそれをサポートするのが国連機関であるということを学び、とても魅力的な仕事だなと思いました。また、国連機関では実に色々な国籍の人々が働いています。母国のために働いている人もいれば、私のように他国の人々の生活全般を改善するために働いている人もいます。多国籍なメンバーで集まって様々なアイデアや知恵を出し合い、議論し、改善策を探っていくプロセスーーインターン時代もこのことに惹かれていたように思います。現在は、外務省国際機関人事センターがサポートしてくださっているJPOプログラムにて国連機関で働く機会をいただいています。

門元記子さん

--看護医療学部に入学を決めた経緯は?

小中学時代は海外で暮らしていて、高校入学のタイミングで日本へ戻り慶應義塾湘南藤沢高等部に入学しました。ちょうど私が大学に進学する時期に、看護医療学部が新しい学部として開設されると聞き、「看護」とはなんだろうと漠然と関心を持ち本を読むようになりました。実は海外にいたときから高校野球に憧れていたこともあり、当時は野球部のマネジャーをしていました。そこで身体面だけでなく精神面でも悩んだりしている選手を見て、看護が対象とする「人」を包括的に看る視点に興味を持ったように思います。

--看護医療学部に入って良かったことは?

いくつかありますが、まずは様々な学問を幅広く学べたことです。看護医療学部といっても、総合大学である慶應義塾のメリットを活かして、別の学部の講義も受けることができます。私自身、他学部の授業も受講し、自分の関心に合わせて他学部の学生と交流できたので、それも自分の成長につながったと思います。サークル活動でもいい経験ができました。タッチフットボールというアメフトのタックルをタッチに置き換えた、より安全に競技できる女子スポーツがあるのですが、学部時代はそれに熱中していました。授業前後や土日に練習を重ねていたこともあり、肌は真っ黒に日焼けしていたので、実習中に白衣を着るととても目立っていました(笑)。患者さんに興味を持たれて「どうしてこんなに焼けてるの?」と聞かれることもありましたね。それが患者さんとコミュニケーションを図るきっかけにもなっていたので、人と接する上で自分が本気で打ち込めることがあることは大切だなと思いました。また、とても熱心な先生が多いです。「この子ならこれができるだろう」と個人個人をよく見てくださっているので、それぞれに合うチャンスをタイミング良くくださるんです。私も1年生の頃、先生に紹介された英文エッセイコンテストに参加させてもらい、ありがたく賞をいただいたのを覚えています。また、授業以外でも学生の悩みに対していつも真剣に相談にのってくださったり、とてもあたたかいサポートをしてくださいます。卒業して10年近く経つ今でも、親しく接してくださる先生もおられ、先日ジンバブエに先生から日本のものでいっぱいになった荷物が届きました。とにかく看護医療学部はあたたかい環境で、人を育ててくれる学びの場です。

--看護医療学部を志す後輩たちへメッセージをお願いします。

看護医療学部を志し卒業する人は、どのような分野であっても人と接する仕事に就く人が多いかと思います。社会に出ると本当に様々な人と出会います。看護とはどのような人に対しても、最善のケアを提供することが求められる仕事です。またそれらは「自分を通したサービス」ですから、自分の持つ引き出し次第で相手に与える印象であったり影響は変わっていきます。なので、好きな世界だけにとどまらず、より多くの世界を見知っておくことが大事だと思います。少しでも興味があることは試してみるなどして、五感を使って体験してみましょう。そうすることで、逆に自分のことをよく知ることもできると思います。アンテナを張って、耳を傾けて、目で見て、触れてみて下さい。学生だからこそできることも多いので、看護医療学部でたくさんのことに挑戦してみてほしいです。その中でそれぞれが夢中になれることを見つけられると良いのではないでしょうか。

(インタビュー取材 2012年7月)