「その人らしさが表れた生き方をサポートする看護師に 鈴木千琴さん

その人らしさが表れた生き方をサポートする看護師に 鈴木千琴さん

子どもの健康増進、健やかな成長・発達の保障、苦痛を緩和し、安らかに過ごすための手助けをするのが小児看護の果たす役割です。もちろん直接的な看護だけではなく、頻発している子どもへの虐待、育児力の低下している家族のサポートなど、小児看護に求められることは社会的な側面からも増えています。注目すべき医療の現場である小児看護ですが、臨床経験8年目のベテラン小児看護担当看護師さんにお話を伺いました。登場してくれるのは慶應義塾大学看護医療学部1期生の鈴木千琴さん。小児看護の魅力、やりがい、この道を志した経緯などを伺ってきました。

--小児看護の魅力とは何だと思いますか?

子どもの成長がはっきりと見えることです。これまで発達がやや遅れていた子が、少し大きくなって病院へ顔を見せにきてくれたときに喜びを感じます。高校生のときに入院して、大学生になって元気な姿で遊びに来てくれる子も多いです。その子たちの抱えている問題を解決するために、当時真剣に向き合ってきた子たちです。だからこそとても嬉しいですし、そこにやり甲斐を感じます。

--そもそも小児看護の道を志したきっかけは?

看護医療学部の3年次に、小児看護を専門としている先生と出会いました。人が好きなので、人と関わる仕事に就けたらと、昔から漠然と思っていましたが、先生のもとで多くのことを学べたことが、この道に進もうと思ったきっかけです。「こんな子がいてね......」と講義でお話ししていただいた後、実際に実習へと向かうことが多かったです。子どもは1ヶ月単位・1年単位で大きく変化するということ、子どもは自分の症状がよく分からないので、私たちがいかに素早く変化に気付いて対応するかにかかっているということ、また看護する相手には子どもだけではなく、そのご家族も含まれているということなど、現場でのリアルな学びができました。3年次で受講した講義や実習を経て、小児看護こそ子どもとその周りの多くの人を含め、人と深く接することのできる職業だと感じ、今にいたります。

鈴木千琴さん

--在学中に印象的だった講義や実習について教えて下さい。

3年次の実習で小児病棟へ通っていたのですが、看護師長さんが「看護師は患者さんに一番近いところにいて、素早く気付かなくてはいけない存在です。たとえばチューブから出た色ひとつでも、これまでとは微妙に違うといった異変を感じたらすぐに医師へ伝えること。それが私たちの役目です」と語っていたことは忘れられません。今でも仕事をするにあたり、強く意識していることです。

--看護医療学部に入ってよかったことは?

慶應大学自体が政策系に強い学校ということもあり、入学後すぐに医療政策を学べたことです。実は就職してすぐの頃は、当時学んだことはそれほど活かされていませんでした。技術を専門に学んできた専門学校卒業の同期の方が技術面でかなり優秀だということもあり、慣れない看護技術向上に悪戦苦闘していた時期でもありました。しかし働き始めて506年が経った頃からでしょうか。あの頃の学びを思い出して、仕事に活かすことが増えてきました。エビデンスを読んだり、研究を進めたり、勉強会で指導したりするシーンで、当時学んだ政策が生きてくるようになっています。またグループワークで培ったリーダーシップも、仕事を遂行する上で発揮されているのではないかと思います。

--入院している子どもの家族に対して心がけていることは?

たとえば、ご家族の中には「子どものチューブに触れるのが怖い」という方もいます。確かに見慣れないものですし、そもそも経験がないと不安になるのも分かります。それでもご家族にしてもらわなくてはいけないときもあります。私たちにはご家族の抱える心配や不安を解決する役割もあります。目の前でやり方を見せながら、いかに相手に分かりやすく説明し、実際に正しく操作してもらうかにかかっています。このときに大事なのは、普段から子どもとそのご家族と密なコミュニケーションを取っておくこと。信頼関係を築くことにより、スムーズに進められることもあるのです。

--小児看護のどんなところに難しさを感じますか?

医学的にしなくてはいけないことと、ご家族の思いや意向とをいかにマッチングさせるかというところですね。4ヶ月近くずっと入院している、小児ガンの子どもさんを受け持ったことがあります。一歩も病院の外へ出られないその子を少しでも、自宅に帰らせてあげた方がいいのではという思いが、頭を何度もよぎりましたが、突然ふっと考え直したのです。果たしてそれは正しいことだろうかと。いつ容態が変わって危険な状態になるかも分からない病気です。病院にいながら私たちとの関わりを通して、その子のためにできることはないだろうかという考え方に変えました。たとえ常識的なことや医学的な理由から導き出されることであっても、実はご家族への押しつけになっているかも知れません。確かに理論は大事です。ただそれだけではなく、個々に応じた対応も合わせて考えながら、いかにその人らしさがあふれる生き方をサポートするかーーこのことはキャリア8年目となった今でも、そしてこれからもずっと考え続ける必要のあることだと思っています。

--看護医療学部を志す後輩たちへメッセージをお願いします。

後々仕事にリンクする内容のものが多いので、あたりまえのことですが、授業はしっかり聞いておきましょう。看護医療学部には様々な志を持った人が集まるので、みんなと関わるだけで良い刺激がもらえる学部です。ともに高め合っていけるのではないでしょうか。また学生の間は時間があります。将来医療の現場で働くときに必要不可欠なコミュニケーション力を高められる、大事な期間なのかと思います。人間関係について多くのことを学んで下さい。また少しでも興味のある分野があれば、「じゃあ学んでみよう」と軽い気持ちで挑戦してみるといいでしょう。医療の現場で働くようになっても、学びはずっと続いていきます。それが医療に携わるものの楽しさでもありますから。

(インタビュー取材 2012年6月)