「直近の目標は、感染症看護のスペシャリストになること」葛城建史さん

直近の目標は、感染症看護のスペシャリストになること 葛城建史さん

実に幅広い「看護師」という職業。患者さんと向き合うだけではなく、患者さんからの相談に対応したり、病院で働くスタッフのケア・チェックを行う業務もあります。現在、慶應義塾大学病院・感染制御センターに勤務し、感染症看護を専門とする葛城建史さん。慶應義塾大学看護医療学部1期生で、卒業後は別の病院で勤務し、慶應義塾大学病院のICU(集中治療室)で臨床経験を積んだ後、現職に。担当されているお仕事のこと、看護医療学部時代のことなど、いろいろなお話を伺いました。

--現在、どんな仕事をされているのですか?

慶應義塾大学病院・感染制御センターで、感染症や疫学などの知識に基づいて、個人や集団の感染予防、発生時の対策を行うなど、感染管理に関する一連の業務を行なっています。具体的には、患者さんをケアする前後に、院内のスタッフが手指衛生を徹底できているか調査したり、患者さんのケアや感染対策についての相談に対応したり、感染症の治療に関して、カルテから患者さんの状況・状態を読み取り、医師に看護師としての意見を伝えたりしています。午前中は、感染症対策チームのメンバーで、患者さんの治療やケアについて議論したり、薬剤耐性菌(薬に対して抵抗力を持ち、薬が効きにくくなった菌のこと)が発見された患者さんの対応について話し合うなど、チームで仕事を進めることが多いです。午後は、各病棟を回ってスタッフの手指衛生の状況を確認したり、患者さんのカルテを見ながらデータを分析しています。

--働きながら、大学院にも通われているそうですね?

慶應義塾大学病院に来てから、はじめの5年半はICUで働いていました。その後は大学院で感染制御看護学を学びながら、感染制御センターで働いています。ICU時代には、病棟と感染制御センターとを結ぶ、リンクナースとしても活動していたので、現在の感染制御センターでの仕事とつながるところがあります。平日の昼は仕事をしているため、講義を受けるのは主に夜や土曜日です。「学びへの意欲が高い」と言っていただくことが多いのですが、私自身、常に目標を持ち、それに向かって邁進したいと思っています。また、単に働くだけではなく、働きながらステップアップをしていきたいと考えています。大学院を卒業すると、感染症看護専門看護師の申請資格を取得できます。資格取得後は、教育や研究分野はもちろん、調整や相談の面でも、感染症看護のスペシャリストとして活躍していきたいです。

葛城建史さん

--そもそも看護医療学部を選ばれたきっかけは?

大学では化学を学びたくて、慶應義塾大学理工学部へ進みました。理工学部では生物の面白さに次第に惹かれていき、東京大学大学院農学生命科学研究科へと進学しました。大学院では生物学的な実験を中心に行なっていました。しかし、研究を行っていく中で、自分のやりがいに関して迷いがありました。小学生のときに父を癌で亡くした際や、学生時代に祖父が入院した際、何も力になれない自分自身に悔しさを感じた記憶もあり、直接人の役に立つ仕事をしたいと、当時から考えていました。そんなときに看護医療学部が新設されることを知り、看護師を目指すために、看護医療学部へ進もうと決めました。看護師の資格を取得することだけにとどまらず、視野が広がるような学びを提供してくれそうな点に魅力を感じました。

--どのような学生生活を送っていましたか?

SFCから三田キャンパスまで外国語の講義を受けに行くなど、慶應ならではの総合大学という強みを活かし、あらゆることにアンテナを張って、楽しく学んでいました。講義やゼミ以外の学内活動としては、公衆衛生学研究会というサークルの一員として、北海道の医療過疎地へ赴いて調査を行うなど、学部での学びをいかして実践的に活動していました。また、学内外で様々な経験を積みたかったため、積極的にアルバイトもしていました。平日は家庭教師、週末は電車内の売り子として、勉強以外のことも楽しんで、視野を広げるよう心がけていました。また、国家試験受験前には、仲間と集まって勉強に励んだことも良い思い出です。現在も特にゼミが一緒だったメンバーと仲が良く、時折集まっては情報交換をする間柄です。同じ仕事に就く仲間も多いので、悩んだ時には相談にのってもらったりしています。このようなメンバーと同じ職場で働けることは、とても心強いことであり、嬉しく思います。

--特に心に残っている講義や実習について教えてください。

たくさんありますが、特に心に残っている講義は「看護政策」です。講義を受ける前は、あまり政策について考えたことはありませんでしたが、現状を知り、アピールすることで看護の質を上げられる可能性がある、と学ぶことができました。3年生からの実習では、1人の患者さんに1~2週間に渡って付き添い、その方と深く関わることで、徐々にその方に信頼していただき、必要としていただけるようにもなりました。現在の仕事と特につながっているものといえば、「急性期」の実習です。感染対策室を見学させていただいたことがきっかけで、感染対策へ興味を持つようになりました。海外へも実習に行かせていただきました。アメリカのメイヨークリニックでの実習で、海外の医療制度や看護師の活躍を自分の目でしっかり見てきたことも、強く心に残っています。

--最後に看護医療学部を目指す後輩たちへ、メッセージをお願いします。

勉強はもちろん大切ですが、勉強以外のことにも、積極的に取り組んでおいた方が良いと思います。看護師になって、患者さんと接するとき、患者さんとたくさん話をします。勉強以外の活動もして、世の中のことを広く知ることで、患者さんのお話も理解できますし、会話も広がります。様々な経験を積んでいた方が、コミュニケーションを図りやすくなり、患者さんに共感できることも多くなるはずです。私の場合は、高校時代からバイトをしていた経験があり、勉強で得られる視点とは、異なる視点を養うことができました。バイトではなくても、人間的に成長できることをしておくのが良いでしょう。看護医療学部の卒業生の進路は、看護師はもちろん、看護に関する仕事全般に就く人、起業する人など様々です。看護に関する学び以外にも、幅広い学びを得たい人にお薦めしたい学部です。総合政策学部や環境情報学部をはじめとした他学部の講義を受講できたり、アメリカ・イギリス研修に行くこともできます。可能性が広がりやすく、新しいことに挑戦したい人に適した学部です。他とは違う環境で学びたい方は、看護医療学部を目指してはいかがでしょうか。

(インタビュー取材 2013年6月)