「『地域の健康何でも屋』として活動 生活全般をサポートする保健師に」池谷真菜美さん

「地域の健康何でも屋」として活動 生活全般をサポートする保健師に 池谷真菜美さん

地区活動や健康教育、保健指導などを通じて、地域に密着し、住民の健康を守る保健師。自治体に勤める行政保健師、民間企業に勤める産業保健師、学校に勤務する学校保健師に大別されます。職業としては知名度の高い保健師ですが、実際どんな仕事をしているのか、ピンとこない人もいるのではないでしょうか。荒川区保健所で保健師として働く池谷真菜美さんに、現在担当されているお仕事のこと、看護医療学部時代のことなど、いろいろなお話を伺いました。

--現在、どんな仕事をされているのですか?

成人保健を担当しています。その活動の一環として、30~40代の働き盛りの男性向けに「あらかわNO!メタボチャレンジャー」というプログラムを企画・実施しています。半年かけて個人に合ったプログラムをもとに、栄養や運動に関する講座を受講してもらい、自分なりの健康法を見出してもらうものです。母子保健を担当することもあります。4ヶ月児健診や1歳6ヶ月児健診、3歳児健診などの定期的な健診の他、児童館でお母さんたちの育児相談にのったり、自宅訪問をすることもあります。

--保健師の仕事の魅力は何でしょうか?

健康に関する「地域の何でも屋」だからこそ、領域にとらわれることなく、活動しやすいのが保健師の魅力ではないかと思います。健診や相談業務の他に、今力を入れている「あらかわNO!メタボチャレンジャー」の例でいうと、告知用のチラシを作ったり、そのチラシを各所へ置いてもらうための営業活動もしています。たとえばスーパーで店長さんなどへ、現状の荒川区の健康状態についてまとめた資料をもとにプレゼンし、チラシを置かせていただけないかと相談することもあります。地域の今を理解していただき、協力していただけるよう、草の根活動をすることも多いです。新しい取り組みに挑戦しやすいのが最大の魅力ですね。

--仕事にやりがいを感じる瞬間は?

地区担当として関わっていたお母さんが、引越し前に挨拶に来てくださり、これまで担当させていただいた健診や相談に対して、感謝してくださったりする時ですね。また「あらかわNO!メタボチャレンジャー」で、期間中に12kgの減量に成功した方がいたときも、活動に力を入れて良かったなと思いました。人と関わることが好きなので、関わった方が喜んでくださるときに、仕事へのやりがいを感じます。

池谷真菜美さん

--保健師になろうと思ったきっかけは?

昔からとても健康体で、入院経験は一度もありません。それもあって、昔から「病気にならないようにすることが大事」といった考えを持って育ちました。保健師になれば、病気になる前の予防に携わる仕事ができると思ったんです。また、企画的な仕事をしたいとも思っていました。学生時代にイベント企画サークルにいたので、企画してものを作り出すことの楽しさを知っていました。今でもチラシを作るときに工夫したり、「健康」といった表現をすこし変えてみたりと、大小問わずさまざまな企画づくりを楽しんでいます。

--学生時代はサークルを含め、どんな学生生活を送っていたのですか?

主に1~2年次に活動していたサークルでは、さまざまなイベントを企画・運営していましたが、最も大きいものは、新入生の約半数(3000人ほど)が参加するイベントでした。新入生が不安をなくせるよう、友達をたくさん作ってもらうことを目標にしていました。慶應は総合大学なので、サークルに所属したことで、学部の垣根を越えた繋がりができて、自分の専門分野ではない話も聞けて、刺激的な日々を過ごせました。

--そもそも看護医療学部を選んだきっかけは?

高校は理系で、資格を取得できる学部に進みたいなとは、漠然と考えていました。具体的に看護医療学部を志望したのは、手に職を付けられることはもちろん、国際関係の講義を受けられること、総合大学であることなど、主に3つの理由がありました。高校生の頃、国際協力に興味があったんです。看護だけではなく、幅広い学びができることに魅力を感じました。入学後はイギリスに研修に行ったり、ネパールやカンボジアをメディカルツアーで訪れたことも、素晴らしい経験でした。

--特に心に残っている講義について教えてください。

看護医療学部ではグループワークが多いです。メンバーと話し合ったことを、パワーポイントで資料にし、発表する機会を多く与えられたのは、とてもありがたいことでした。現在の仕事に必要なスキルを鍛えられたと感じています。また、地域の資料を参照しながら、環境や住宅など、多角的な観点から地域についてまとめるグループワークも、記憶に残っています。高層マンションの多い地域は裕福な家庭が多いものの、孤立してしまいやすい環境だとか、逆に団地ではあまり裕福ではない家庭が多いものの、地域住民同士では深く交流している場合があるなど、学びが多かったです。保健師に必須な"多角的な視点"を身につけることができました。

--実習にはどのようなものがありましたか?

保健師の実習もとても印象的でした。地域のグループ活動へ、共働きのお母さんの代わりに、おばあちゃんがお孫さんを連れて参加されていました。そのお孫さんはすこし暴力的な子でした。お母さんと接する機会をできるだけ増やしてもらい、すこしずつ暴力を改善していけたら......と保健師さんは活動されていました。いかにお母さんに働きかけるか、といった取り組み方を学べた現場でした。相手によって事情も違うので、アプローチの仕方はさまざまですが、まず手紙を書いたり、電話したり、ときには突撃訪問したりなど、お節介なようですが、問題を解決するためにどう進めていけばいいかを、実践的に学べた機会でした。

--最後に看護医療学部で保健師を目指す後輩たちへ、メッセージをお願いします。

看護師とは違って、先輩モデルの少ない保健師ですが、保健師は"地域の健康何でも屋"です。仕事で実現できることの範囲が広く、自分の力で切り拓いていけることも、たくさんあります。また、健診で接する赤ちゃんたちを長いスパンで見られるのも魅力です。4ヶ月児健診のときに接した赤ちゃんが、1歳半になって再び訪れたときには、「成長したなぁ」、「しっかりしたなぁ」と感じて、こちらも嬉しくなりますし、学ぶことも多いです。私の勤めている所では、平均して3年に1回異動があり、現在異動希望を出しています。これまで母子保健、成人保健をメインに進めてきましたが、感染症や高齢者、精神保健の分野もひととおり学びたいです。心意気次第で、健康に関するスペシャリストになれる素晴らしい仕事だと思います。

(インタビュー取材 2013年5月)