「コンゴ民主共和国『アカデックス小学校』プロジェクトで養ういくつもの"視点"」
坂本のぞみさん

慶應義塾大学経済学部を卒業後、看護医療学部へ編入した坂本のぞみさん。高校生時代から医療に興味を持ち、経済学部では労働経済を学んでいました。医療への夢を捨て切れず、大学卒業前に立ち止まって考えたのは、医学と看護の二者択一。決意をもって入学した後、課外活動として参加することなったコンゴ民主共和国「アカデックス小学校」プロジェクトでの学びを中心に、学生生活についてお話を伺いました。

--医療の道に進もうと決めたきっかけは?

高校生の頃から医療分野への興味はあったのですが、進学したのは慶應義塾大学の経済学部でした。労働経済や女性のワークライフバランスについて学びました。でも、卒業前にふと先の人生を考えたときに、私がしたいのは、自分の手で救えるだけの人の命を救うことなのではと気付きました。医学と看護のふたつを並べてみたときに、看護の道へ進もうと決めました。医師が目を向けるのは病気や怪我そのものです。そのため、手術をして患者さんが良くなると、患者さんとはすこし距離が離れてしまいます。私は病気や怪我そのものはもちろんですが、患者さん自身と手術前からその後まで長く関わり、サポートしたいと感じました。看護の世界は決してすべてが良い方向へ向かって動いているわけではありませんが、新しいことに取り組める可能性は大きいのではと感じていました。

--慶應看護医療学部を選んだ理由は?

経済学部に在籍しているときから、総合大学ならではの慶應の良さを実感していました。医療・看護系の学部のみの大学や看護の専門学校に進むといった選択肢もありましたが、医療や看護以外のことをあまり知らない、視野が狭くなってしまうのではと不安でした。その他、国立大学を選択する道もありましたが、臨床と研究とのバランスが偏っていたり、あまり自分には向かないなと思ったのです。研究がメインになると、研究者への道以外を選びづらくなります。一方、看護医療学部は臨床も研究もどちらもバランス良く学べるのが魅力です。看護師だけではなく、さまざまなキャリアを積まれた先生方から、教えを受けられることも大きかったです。プロフェッショナルになるならここしかないと思いました。また、昔から国際保健分野に興味を持っていたのですが、その学びを深められそうなコンゴ民主共和国「アカデックス小学校」プロジェクトなど、海外での活動に取り組みやすいことも決め手となりました。

--コンゴ民主共和国「アカデックス小学校」プロジェクトとは、どんな内容のプロジェクトなのですか?

総合政策学部・松原弘典研究室、環境情報学部・長谷部葉子研究室が中心となった、アフリカのコンゴ民主共和国で「アカデックス小学校」を設計・建築・運営する途上国支援のプロジェクトです。現在は屋根付き体育館や黒板を付けただけのシンプルな教室を持つ、3つの校舎が建っています。毎年約30人ほどのメンバーでコンゴへ行き、現地の方と一緒に建設やワークショップに取り組んでいます。昨年はそのメンバーに加わった医学部が「医療チーム」として渡航しましたが、今年は看護医療学部も加わって、6名の「医療チーム」となります。1月にこれが正式に決まってからは、週1回のミーティングを行いながら、具体的な行動計画を立てています。

--コンゴ民主共和国「アカデックス小学校」プロジェクトでの個人的な目標は?

単なるスタディ・ツアーで終わらせたくはありません。このプロジェクトは2年連続で参加することになっていますが、自分にとって初回の今年は、現地でさまざまな調査に励みたいです。そして持ち帰った現地のデータを検証しながら、翌年の渡航に向けた活動をじっくりと練るつもりです。現地の方たちに真に必要なものの中で、自分たちができることを探したいです。そう決意したのはこの春、授業の一環でラオスを訪れたことがきっかけでした。何か現地の人のためになることをしようと思って張り切って行ったものの、現地の人たちからは一時的でしかないサポートは求められていないのかも......と感じました。継続できないことは意味がないですし、現地主導で動かないと何も変わらないと思うのです。また、専門性の異なる多学部が集うプロジェクトでもあるので、色々な視点を学びたいです。看護医療学部にいると、自分が医療従事者の視点でものを見、考えてしまいますが、その視点だけに偏るのはあまり良いことではないと考えています。医療従事者としての視点だけではなく、それ以外の立場からの視点持つなど、様々な方向から多角的に、バランス良くものを見て、考えられる力を、プロジェクトを進める中で養っていきたいですね。

--看護医療学部の良さとは何でしょうか?

熱い気持ちを持つ学生に対して、教授陣が快く協力してくださることです。「予防接種」と「ワークライフバランス」に興味があり、研究したいなと思っていたら、看護医療学部の教授に、定期的に相談できる機会をいただきました。教授と話をしながら研究の方向性についてアドバイスを受けたり、教えていただいたりしています。自分を高めたい学生を積極的に支援する環境が整っています。また、卒業生の就職先が多岐に渡るのも、各方面でキャリアを重ねてきた教授陣が、親身になって相談にのってくださるからだと思います。制度面で言えば、外国での学習・研究活動を手助けしてくれる「青田基金」も、やりたいことを後押ししてくれる素晴らしい仕組みです。自主性を高めてくれる機会が十分に整っています。

--将来はどうなっていたいですか?

日本で10年くらいは看護師として働くつもりです。以前は助産や母子を担当したいと思っていましたが、「科」を絞り込むのをやめました。ひとつの科に縛られることなく、たとえば助産に所属していても、生まれる瞬間だけではなく、その前後を長く見ていきたいです。一ヶ所に担当の科を持っていたとしても、その後のカンファレンスに加わったりと、ひとつの科だけにとらわれることもなく、働き方の選択肢は増えているようです。その後のキャリアとしては、やりたいことがいくつもあります。省庁での仕事や大学院への進学も気になっています。国際保健に興味があるので、いつか医師団に入る夢も持っています。

--看護医療学部を目指す学生へメッセージをお願いします。

医療・看護のことしか知らなかったり、学びたくない方は、せっかく看護医療学部に入っても、視野を広げることはできないでしょう。いろんなことに興味を張り巡らせている学生さんに入学してきてほしいです。高校生の頃から、是非、社会情勢や世の中のことに興味を持ち、多くのことを吸収してください。看護医療学部に入学した時点で、選択できる職業の種類はある程度絞られます。でも、ほかのことも満遍なく知っていてほしいです。将来看護師として働くようになったときに、世の中のことを知っていて、理解している人の方が、患者さんときちんと向き合えて、コミュニケーションも図れると思います。やりたいことと自分自身の意見をしっかり持って、目標を持って進んでいける人には、とても濃い4年間になるはずです。

(インタビュー取材 2013年6月)