「『世界の医療・保健制度II』(海外研修)で見えたプロフェッショナルへの道」村山弘乃さん

「世界の医療・保健制度II」(海外研修)で見えたプロフェッショナルへの道 村山弘乃さん

小学生時代の入院経験がきっかけで、幼くして医療の道を意識した村山弘乃さん。「看護師さんが支えてくれたおかげで、辛い入院生活を乗り切れました」と話す村山さんは、看護師が持たれている世間一般のイメージに対し、徐々に疑問を抱くようになります。アメリカ在住経験も相まって、「日本の看護師の地位を向上させたい」という目標を持つようになりました。学びの一環として訪れた、イギリスでの「世界の医療・保健制度II」研修の経験を中心に、学生生活についてお話を伺いました。

--医療の道に進もうと決めたきっかけは?

小学4年生で入院していたとき、担当医師が3回変わりました。1人目は私とまったく目を合わせない医師でしたが、3人目は聴診器を手のひらで温めてから当ててくださるようなやさしい方でした。それこそが本来の医師のあり方なのではと感じたのを覚えています。一方、当時辛かった私を支えてくれたのは、幾度となく小さなサインに気付いてくださった、看護師さんの存在でした。でも、年を重ねるにつれて、世の中の一般的な「学校へ行って資格さえ取ればなれる」「医師のサポート役」といった看護師へのイメージに、疑問を感じるようになりました。そんなに簡単な世界ではないし、病気を診る医師に対して、患者さんを見るのが看護師。まったく役割が違います。とはいえ、やはり日本では看護師はあくまでも医師の下にいて、医師から与えられた仕事をするといった、補助的なイメージしか持たれていません。アメリカに住んでいた経験があるのですが、アメリカでは看護師が医師とは異なる視点で、看護師ならではの特性を活かしながら、自信とプライドを持って働いていたのを覚えています。そんな姿を目の当たりにして、日本でも看護師のイメージを変え、地位を向上させたいと思ったことがきっかけです。

--慶應看護医療学部を選んだ理由は?

様々なキャリアを重ねてこられた、素晴らしい教授陣が集まっているからです。特定の医療分野のパイオニアや重鎮の先生方が大勢いらっしゃいます。そのような精鋭の先生方から教育を受けたいと純粋に思いました。また、海外へ研修に行って学べる機会があること、国際関連の講義が多いことも、魅力的に映りました。昨年参加した「世界の医療・保健制度II(海外研修)」も、入学前から行きたいと感じていました。海外の医療事情について関心があったので、これは学べるチャンスだと思えたのです。

--「世界の医療・保健制度II」とはどのような海外研修なのですか?

イギリスの保健、医療、福祉制度や政策を、現地へ学びに行く研修です。病院や老人ホーム、小児と成人のホスピスなどを見学したり、現地の大学生とディスカッションをしたり。英語でスピーチもしました。この研修はグループごとにテーマを決めて、イギリスと日本の制度や政策を比較し、日本の医療をどう進めていけばいいか考える場でもあります。英米では看護師の地位が上がる一方で、患者さんのベッドサイドに付き添う時間が減っているという現実があります。そんな事実を学んでから、看護師としてやるべきことは何なのかを考えたいと思い、私たちのグループでは「看護師の本質とは?」というテーマを掲げていました。

--「世界の医療・保健制度II」で学んだことは?

プライドを持って働く現地の看護師の姿を目にしたり、様々なお話を聞くうちに、テーマに対する答えが見えてきました。自分自身の持つ知識や技術を最大限、患者さんへ注ぎ込むことこそが本質なのだと分かったのです。たとえベッドサイドでの時間が減っても、患者さんをサポートするために、全身全霊で取り組むことが重要なのだと。また、ホスピスに対して持っていたイメージも変わりました。現地のホスピスはすべてチャリティーで賄われています。また「緩和ケア」という概念もありますし、ホスピスから学校へ通う子どももいるくらい、明るいイメージの場所です。ホスピスの在り方、終末期についても考える重要な機会となりました。帰国後は、イギリスと日本における医療の「現実」を見たことで、医療に対する問題意識も高まり、ビジョンが明確になりました。道が定まったと感じています。

村山弘乃さん

--自分の意識を変えた講義はありましたか?

ゲストスピーカーを招いての講義は毎回刺激的です。慶應のネットワークを活かした素晴らしい教授陣から、医療の最先端の情報はもちろん、課題や本質、問題提議などさまざまなことを学べます。医療に対する問題意識を持ち、考えるきっかけとなる時間です。大人数での講義のため、リアクションペーパーの提出がアウトプットとなるのですが、それだけでは足りなくて、毎回スピーカーの方に駆け寄って質問したり、感じたことを共有したりしています。深く学べる機会を活かさないのはもったいないことです。このほかにも、私たちの代から始まった「医療系三学部合同講義」も、非常に有意義な講義です。各学部によって医療に対する視点は異なります。自分とは違う視点に気付かされるのはもちろん、いつか一緒に働くかもしれない仲間たちと、学生のうちから腹を割って話せる素晴らしい機会です。

--看護医療学部の良さとは何でしょうか?

夢を目標にするための準備をサポートしていただけるところです。看護師になるための学びを与えていただけるのはもちろん、広い視野を持って幅広く学びたい人が、支援を受けられる環境が整っているのです。たとえば、行かせていただいた英国研修は、外国での学習・研究活動を手助けしてくれる「青田基金」を利用していますし、授業外でも教授たちが手を貸してくださいます。今は8人の有志で脳死について話し合う勉強会を開いていただいていたり。恵まれた環境を無駄にすることなく、感謝しながら学んで、夢を実現させたいです。

--将来はどうなっていたいですか?

生涯の目標は看護師の地位向上なので、医療経営を中心に、マネジメント能力も身につけたいと考えています。医療制度を外側から変えるのは時間がかかりますが、内側から変えることならできると思います。全体を見渡せるプロフェッショナルを目指します。

--看護医療学部を目指す学生へメッセージをお願いします。

単に看護師を目指す人ではなく、プロを志す人に入ってきてほしいです。「看護師の資格が欲しい」というだけでは、すこし厳しい環境かも知れません。濃い内容の講義が非常にたくさんあり、学ぶことが多いため、のんびりと過ごすのは難しいと思います。ですが、医療への熱い想いを持っている方にとっては、とても学びの多い4年間になるはずです。学生のときから高い意識を持って、やりたいことをいくつも持って入学してきてください。慶應の4年間でできることは、びっくりするくらいたくさんありますから、その機会を存分に活かしてほしいなと思います。

(インタビュー取材 2013年6月)