「看護をすることで、その人の人生に深く入り込めるんです」須永明子さん

看護をすることで、その人の人生に深く入り込めるんです 須永明子さん

高校は文系だけれども、看護の道へ進みたいーー歩むべき道をはっきりと意識したのは高校生の頃。それから丸3年半で、大きく成長した須永明子さん。数々の経験を重ねて分かったことを「看護をすることで、その人の人生に深く入り込めるんです」と語る表情に、柔らかさと強さが同居しているのを感じます。学内サークル、実習、そして3.11で甚大な被害を受けた被災地でのボランティア活動を体験して学んだこと、感じたことについて、お話を伺いました。

--看護医療学部に入学したきっかけは?

高校生のときから国際協力に興味を持っていました。当時はそれに直接的につながる外国語とか国際関係の学部を考えていたのです。ただ海外からの留学生と関わる中で、自分の中での思いが変わった瞬間がありました。外国語を学んで海外と関わるのではなく、手に技術を持つことで直接人と関わることを生涯仕事にしたいなと考えるようになったんです。それから医療系を志すようになりました。ただ高校では文系だったので、受験できる医療系学部のある大学は限られていました。慶應の看護医療学部は文系出身者でも挑戦できたので、受験することに決めたんです。

--在学中に心に残っている活動は?

インドネシアでの保健活動を行うサークルに入っていたのですが、このときの記憶はずっと忘れないと思います。実は入学前に大学の公式サイトでこのサークルのことをチェックしていて、入学したら入ろうと決めていました。このサークルはインドネシアに足を運んで、主に現地の女性と直接コミュニケーションを図るというものです。売春をして生活資金を稼いでいる女性たちが、インドネシアにはたくさんいます。経済的に困窮しているという理由での売春が多く、子どもを育てていくために、また貧しい家族から強制されているという女性もいました。そんな女性たちと向き合ってHIV、家族計画、ライフプランなどを一緒に改善していく活動に取り組んでいました。2年次、3年次の春休みに現地を訪問したのですが、向こうの女性たちが私のことを、しっかりと覚えていてくれたのがとても嬉しかったです。女性たちの生活は経済事情と関係していることもあり、すぐに良くなっていくわけではありません。ただ性や生き方への意識は私たちの活動の甲斐もあって、徐々に変化していく様子を感じることができました。

--実習中の思い出を教えて下さい。

およそ3週間に渡って週4日、1日6時間くらい、1人の患者さんについて担当していました。患者さんが快適な入院生活を過ごせるよう、患者さんの髪の毛を洗ったり、ベッドサイドでお話を聞いたりして、生活のサポートをしていました。患者さんへ対してどういった対応を行うか自分で考え、担当看護師や指導教員へ相談してアドバイスをいただくなど、実践的な取り組みもさせてもらえました。

--実際に患者さんと触れ合って、看護に対して意識は変わりましたか?

実習をしていく中で「看護=人の生活に深く関わること」という認識が生まれ、これはとても幸せなことだなと感じるようになりました。実際に体験したからこそ、分かったことです。また入院中にサポートをすることで、患者さんのこれまでの人生を知ることができます。過去だけではなく、もちろん現在や未来のことも、支える側の私たちには、とても大きな責任があるんだということも感じました。道ですれ違うだけだとそれまでの関係であっても、看護をすることでひとりの人に深く入り込めるんです。深いコミュニケーションを重ねながら、責任を持ってその人の人生に関わることが看護なんだなと思いました。これまで以上に看護への真剣な思いが生まれました。

--在学中に取り組まれていた、被災地でのボランティア活動について教えて下さい。

2011年8月に石巻市へ2週間行ってきました。3.11のとき、私はシリアにいました。遠く離れた海外から日本の様子をもどかしい気持ちで見ていたのです。日本に戻ってきたときに看護学生として、被災地でできることはないだろうかという想いが強くなりました。そこで看護師や理学療法士が集まったボランティア団体に参加することにしました。ボランティアの内容は、避難所への訪問看護です。被災者の方のお話を聞くことが多かったように思います。また夏の時期でもあったので、熱中症対策に関する対応もしていました。主に炊き出し、お茶の配布、救急車を呼んだ際の応急処置などを行いました。

--看護学生としてボランティアをして感じたことは?

看護師という存在が皆からとても信頼され、安心感を与える存在だと認識されているということを、強く感じました。私もそういった人になりたいですね。深い悲しみに包まれたお話でも、看護師には聞いてほしいと思う人が多いのでしょう。確かに看護師は人のすぐ近くにいる存在です。ですがその分、色々なものを受け止める責任も大きいと感じました。また子どもたちが携帯の画像を見せてきて「この犬、津波で死んじゃったの」とあっさりと話すのを目の当たりにしました。心配になったのは今はそう無邪気に話せているけれど、この子はどのような影響を受けていて、今後この経験とどのように生きていくのかということです。小さな変化でも見逃すことなく読み取り、より良いサポートをすることが、今後もきっと必要だなと感じました。

--看護医療学部を志す後輩たちへメッセージをお願いします。

日本には看護を学べる学校はたくさんあります。その中でも慶應の看護医療学部は、色々な方向へと進める選択肢があるところが素晴らしいなと思います。総合大学の強み、慶應のネットワークを活かして、他学部の講義を受けたり、外部から普段聴けない話をしてくれる講師を招いたりなど、看護だけにとどまらない幅広いことを学べます。看護の仕事をするときに必要となる「自分の中の引き出し」を増やせる、素晴らしい4年間になるのではないでしょうか。

(インタビュー取材 2012年6月)